子供たちの手が離れ、そろそろ自宅を売却してマンションへの住み替えを検討している方もいらっしゃることでしょう。しかし、不動産売却の際にはさまざまな税金が発生するので、戸惑うことがあるものです。そこで、今回は不動産の売却に際し知っておきたい要件を分かりやすく解説していきますので、参考にしてください。
不動産売却時にかかる「譲渡所得税」
自己が所有している不動産を売却することにより得た所得(もうけ)のことを「譲渡所得」と言います。
売却したのに「譲渡?」と疑問に思われるかもしれませんが、「譲渡」とは有償・無償を問わず、財産や権利などを他人に転移することを言います。無償で行われるものは「贈与」、有償で行われるものを「売却」と表現しています。
「譲渡所得」は以下のようにして算出されます。
「譲渡所得」 = 「土地や建物を売った金額」 ― 「取得費」 + 「譲渡費用」
「譲渡所得」は、不動産を売った金額から不動産を取得したときに支払った費用を差し引いて算出されます。不動産を売却した際、売却金額が購入金額を上回って利益(譲渡所得)が発生した場合には、「譲渡所得」に応じた税金として「譲渡所得税」を支払わなければなりません。
ただし、住居用の家屋や敷地を売却して得た利益が3,000万円以下であれば、「譲渡所得税」は発生しませんので、節税のためにも意識しておきたいところです。
譲渡所得税率は不動産の所有期間で変わる
「譲渡所得税」の税率は、不動産の所有期間によって異なります。「譲渡所得税」を算出する際、区分されるのが不動産の所有期間です。譲渡した年の1月1日の時点で所有期間が5年を超えるものを「長期譲渡所得」、5年以下のものを「短期譲渡所得」に分けられており、それぞれの税率が設定されています。原則的には「引き渡し日」が所有の始まりとなりますので、お間違いのないようにしてください。
「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」、それぞれの税率は以下の通りです。
「長期譲渡所得」の税率は20.315%(所得税が15.315%、住民税が5%)。それに対し「短期譲渡所得」は39.63%(所得税が30.63%、住民税が9%)と、ほぼ2倍の税率となっています。
なぜ、このように税率が大きく異なるのかというと、「土地ころがし」と呼ばれる短期間での転売で利益獲得を狙う行為の防止にあります。
大切な資産の売却ですので、時期が悪くて税金を多く支払うことにならないよう、しっかり確認してください。
譲渡所得税の計算方法
不動産の「譲渡所得税」を以下のようなケースを例とし、手順に沿って計算してみましょう。
35年前に購入した土地、建物の譲渡価額が1億4,500万円、土地・建物の取得費(建物は減価償却費相当額を控除した後)が1億円、譲渡費用(仲介手数料など)が500万円の場合
① 譲渡所得金額を計算します。
譲渡所得金額 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)の計算式 に当てはめれば
1億4,500万円 – (1億円 + 500万円) = 4,000万円
② 所有期間が5年以上なので長期譲渡価額を適用して税額を計算します。
20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
所得税 : 4,000万円 × 15% = 600万円
住民税 : 4,000万円 × 5% = 20万円
復興特別所得税(※) : 600万円 × 0.315% = 12万6,000円
※
2013年から2037年までの期間、所得税額に復興特別所得税が加算されます。
復興支援のために設けられた税金で、所得税の2.1%が加算されます。
③ 長期譲渡所得(所有期間が10年超のマイホームの軽減税率の特例)が適用されるケース
譲渡所得6000万円以下の部分
14.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%+住民税4%)
所得税 : 4,000万円 × 10% = 400万円
住民税 : 4,000万円 × 4% = 16万円
復興特別所得税(※) : 400万円 × 0.21% = 8万4,000円
「譲渡所得税」以外に不動産売却時にはその他の税金が発生しますが、確定申告時の特例がありますので、以下を参考にしてください。
譲渡益や譲渡損失がある場合の特例
不動産売却時に「譲渡損失」が発生した場合には確定申告しなくてもよいのですが、節税にもつながるので確定申告することをお勧めします。
「譲渡所得」が発生した場合
「譲渡所得」があった場合には、「譲渡所得税」の確定申告をしなければなりま せん。もし、確定申告が必要にもかかわらず申告漏れなどがあった場合、追徴課 税として「無申告加算税」や「過少申告加算税」、「延滞税」などが発生します ので、必ず確定申告を行ってください。
「譲渡損失」が発生した場合
売却して得た金額よりも、購入時に支払った金額が多い場合に発生した損失を 「譲渡損失」と言います。
「譲渡損失」が生じた場合、確定申告をすることで以下のような特例を利用でき ます。
「損益通算」 譲渡損失を他の所得と通算して計算し、課税所得額を減らすこと ができます。
「繰越控除」 一定の方法で譲渡損失を翌年以降の所得から差し引くことができ ます。
「マイホーム売却時の特例」 給与所得や事業所得などの他の所得と損益通算で きます。
これらの特例を受けるためにも、確定申告を忘れずに行い、節税効果を最大限に活用してください。
譲渡所得税以外で必要な税金は?
「譲渡所得税」の他に、不動産売却時に発生するそれ以外の税金を以下で説明します。
印紙税と登録免許税
不動産の売買契約書には印紙を貼り消印をしなければなりません。消印をするこ とで納税することに
なるため、印紙税を貼らなかった(消印をしなかった)場合は納税していないと みなされます。税金を課
せられることがありますので、必ず印紙を貼った上で消印をしてください。
印紙税は売却した不動産の売買金額が高いほど納税額も高くなりますので、しっ かり確認が必要です。
登録免許税
登録免許税とは、登記をするときにかかる税金です。不動産の所有権移転やロー ン完済時の抵当権抹消などの登記を行うときにかかります。
消費税
仲介で不動産の売却を行った場合は仲介手数料を払いますが、仲介手数料にかかるのが消費税です。
相続税
相続税は、被相続人(亡くなった人)から不動産を相続したとき、相続人に課税
される税金のことです。
相続税の税率は10%から55%と高率ですが、基礎控除額がありますので、以 下の計算式によって相続税を算出してください。
基礎控除額 = 3,000万円 + 法定相続人の数 × 600万円
相続税 = 遺産総額 – 基礎控除額 - 諸費用
諸費用には債務や葬儀代などが含まれますので、相続税が発生しない場合もあり ます。
贈与税
贈与というのは、贈与者が生存している段階で受贈者へ譲渡することです。よっ て、不動産を贈与された場合には、以下のようにして贈与税額が決められます。
贈与税額 = (贈与を受けた額 - 110万円) × 税率 – 控除額
贈与税の計算では不動産の評価額や贈与者と受贈者の関係(配偶者と子供など)
が、税率や控除額に影響します。
【まとめ】信頼して相談できる専門家を探してみよう
不動産売却においては、一人ひとり費用の計算や節税のポイントが異なるので、信頼して相談できる専門家がいれば安心ですよね。些細な疑問点にも真摯に対応してくれる不動産会社なのかどうか、見極めるのは大事なポイントになりそうですね。