マンションなどの不動産を所有して家賃収入がある場合、年に一回確定申告が必要です。
本業が会社員で、確定申告制度の知識に自信がない…という方も多いのではないでしょうか。
この記事では
- 確定申告が必要な不動産とは?
- 不動産所得における経費とはどんなものか?
- 「事業的規模」とは?
- 家賃収入がある場合の確定申告の方法
について説明していきます。
判断に困りやすい経費についても具体例を記載して解説していきます。
ぜひご覧ください。
不動産収入に含まれるもの
確定申告とは、1年間の所得に対する所得税の額を計算して申告し、納税したり払い過ぎを調整したりする一連の手続きの事です。
翌年2月16日から3月15日までの間に行いますが、期限内に確定申告ができなかった場合でも、期限後申告としてそれ以外の期間に確定申告を行うことが可能です。
確定申告する際に重要なものとして「不動産所得の額」が挙げられます。
不動産所得は、不動産で得た収入から必要経費を差し引いたものになります。
(不動産収入-必要経費=不動産所得)
原則として不動産所得が発生すれば確定申告は必要になります。
しかし、そもそも不動産の収入とはどういったものを指すのでしょうか。
不動産収入の例
ここで不動産収入の具体例を見てみましょう・
- 土地や建物などの不動産の賃貸料
- 礼金
- 名義書換料、更新料または頭金などの名目で受け取るもの
- 敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
- 管理費・共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など
- 駐車場の収入
- 自動販売機での収入
- 携帯電話基地局の設置料
- 貸し看板の賃料
一見関係なさそうですが、物件などに取り付けた太陽光発電の売電収入も不動産収入に当たります。
不動産所得とは
上記の不動産収入から、必要経費を差し引いたものが不動産所得になります。
この不動産所得が確定申告の際には重要になってきます。
確定申告では所得を10種類に分類しており、不動産所得はそのうちの一つです。
国税庁のホームページでは
- 土地や建物などの不動産の貸付け(賃貸料)
- 借地権など不動産の上に存する権利の設定および貸付け(建物だけを貸し、地代と言われる賃貸料や権利金などをもらう)
- 船舶や航空機の貸付け
の3つの項目のどれかによって得た所得が不動産所得であると定義されています。
参考:国税庁ホームページ
No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
不動産所得の経費として認められるもの
不動産所得を求めるに当たって必要なのが経費です。
国税庁は上記と同じページで必要経費の定義について
- 必要経費にできるものは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうちプライベート上の経費と明確に区分できるもの
- 主なものとして貸付資産に係る固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費
と記載しています。
基本的に経費は不動産経営に必要なものだけで、プライベートに関わる出費は経費と認められません。
以下で具体例を紹介していきます。
不動産所得の経費の具体例
税金(租税公課) | 土地・建物にかかる不動産取得税や登録免許税、固定資産税、印紙税、事業税など |
損害保険料 | 貸している建物が対象の火災保険や地震保険などの損害保険料 |
修繕費 | 貸している建物の修繕のための費用 |
水道光熱費 | 建物共用部分の電気代・水道代など |
減価償却費 | 貸している建物の取得価額を耐用年数に応じて各年分に配分した金額 |
借入金利子 | 土地、賃貸住宅を購入するために借り入れた借入金の利子 |
地代家賃 | 土地を借りて、建物を建てた場合に、その土地の地主に支払う賃料 |
仲介手数料 | 不動産業者などへの仲介手数料 |
業務委託料 | 建物の管理業務を委託している管理会社に支払う料金 |
広告宣伝費 | 入居者募集のための広告や宣伝費 |
上記が不動産所得の経費の一例です。
不動産所得の経費に関しては
- 事業に必要なものかどうか検討する
- 事業とプライベート両方で使用しているものなら家事按分(事業のみで使用している割合を求め、経費として計上する方法)を行う
というポイントを意識して計上するようにしましょう。
不動産所得の経費にならないもの
貸している物件自体の購入費 | 購入費自体は一括で経費にできず、数年に分けて減価償却費として計上する |
所得税・相続税 | 不動産経営と関係ない税金 |
宅建士などの資格取得費用 | あくまで「個人のスキルアップ」とみなされプライベートの費用となる |
物件の工事費の中で修繕費ではなく資本的支出に当てはまるもの | 修繕費は「現状回復のための費用」で経費になる。資本的支出は「その物件の資産価値を上げるための工事費」でそれ自体は経費とならないが、購入費同様減価償却費として計上することは可能 |
以上に不動産所得の経費にならないものの一例を挙げました。
家事按分することが難しい部分や、修繕費と資本的支出など違いがあいまいな部分は一度専門家に相談して、しっかりと確認してから確定申告を行うことをおすすめします。
事業的規模によって経費の範囲などが異なる
山林所得や不動産所得には、「事業的規模」という基準が存在します。
この基準に適している場合、何が変わるのでしょうか。
以下で具体的に解説していきます。
事業的規模の基準
国税庁ホームページには「不動産の貸付けが事業として行われているかどうかについては、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかによって、実質的に判断します」との記載があります。
ただし、同ページには以下の基準に当てはまれば、原則として事業的規模になるという記載もあります。
その基準は
アパートの場合:部屋数10室以上
戸建ての貸家の場合:物件数が5件以上
となっており、社会的に大きな事業ではなくても、それなりに手広く経営を行っている実績が必要とされることが分かります。
またこのページには記載されていませんが、駐車場の場合は50台以上が基準となっています。
参考:国税庁ホームページ
No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
事業的規模のメリット
事業的規模の場合、確定申告でいくつかのメリットがあります。
●赤字分の金額を全額経費にできる
事業的規模であれば、取り壊しや地震などでの建物の被害による赤字分の金額をその年の必要経費にできます。
その年の所得から引ききれない場合には、3年間の繰り越しが可能です。
赤字を次の年の経費へと繰越すことで、節税となります。
事業的規模ではない場合、その年の不動産所得を超える損失があっても、翌年以降繰り越しできません。
●回収できない賃料を経費にできる
事業的規模の場合、回収できない賃料はその年の経費に計上できます。
事業的規模ではない場合、賃料を計上していた年に遡り、その賃料を差し引いて所得の計算をやり直さなければなりません。
●青色申告特別控除の金額が65万円に
事業的規模であれば、複式簿記による記帳などの要件を満たした場合は、最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。
事業的規模でない場合、10万円の青色申告特別控除が適用となります。
●家族への給与が経費にできる
事業的規模で青色申告の場合、家族への給与を経費にできます(青色事業専従者給与控除)。
原則金額の上限はなく、仕事内容などから妥当な金額であれば全額経費にすることが可能です。
白色申告の場合も、事業的規模の場合は家族への給与を経費とすることが認められており、配偶者は86万円以外、それ以外の家族は50万円が控除されます。
ただし、青色申告・白色申告両方とも、
- 15歳以上
- 生計が同一であること
- 6か月以上専従者として従事すること
- 他の仕事をしていないこと
という従業員の条件があるため注意が必要です。
また他の注意点としては、青色事業専従者給与控除を使用すると配偶者控除や扶養控除は受けられなくなるということです。
つまり青色事業専従者給与控除を使用する場合、配偶者控除や扶養控除を上回る額の支払いがないと節税にはならないということです。
どちらが得か、計算してから確定申告を行いましょう。
事業的規模のデメリット
事業的規模には、メリットだけではなく、デメリットも発生します。
一体どんなものがあるのでしょうか。
●個人事業税の支払いが生じる
不動産所得が事業的規模の基準を満たしている場合には、都道府県が課税する個人事業税の支払いが発生します。
65万円や10万円の青色申告特別控除を差し引く前の金額から、290万円の事業主控除を差し引いた額の5%が税額となります。
個人事業税の対象となる不動産所得の規模は、都道府県によって違いがあるため注意しましょう。
●帳簿が必要
青色申告の場合、複式簿記で記帳を行ったうえで、貸借対照表と損益計算書の作成が求められます。
ただし2014年から、白色申告を行う場合でも簡易簿記による記帳は義務付けられているため、青色申告も白色申告も申告の際の煩雑さはそれほど変わりません。
そのため事業的規模ではない場合でも青色申告を行った方が、10万円の青色申告特別控除などメリットがある分節税対策になる可能性があります。
不動産所得の確定申告の方法
1. 書類や資料の準備
確定申告を始める前に、必要な書類や資料を準備しておきましょう。
●確定申告で提出する書類
確定申告書
青色申告の場合…青色申告決算書(不動産所得用)
白色申告の場合…収支内訳書(不動産所得用)
●確定申告書の作成に必要な資料
収入金額が記載されている資料(現金出納帳や通帳など)
賃借者の氏名や家賃の金額、賃借期間、敷金、礼金などが記載された資料(不動産売買契約書や借主との賃貸借契約書)
必要経費の資料(借入金の支払明細、固定資産税などの領収書、保険料などの領収書、管理費の控えなど)
本業が会社員で副業として不動産経営を行っている場合は、会社からもらう給与所得が分かる源泉徴収票も必要になります。
ただし、不動産所得が20万円以下であれば、所得税の確定申告の必要はありません。
2. 決算書(収支内訳書)の作成
青色申告の場合は青色申告決算書を、白色申告の場合は収支内訳書を作成します。
不動産所得専用の用紙を選びましょう。
どちらも不動産の収入や支出、経費を記帳したものを参考に作成します。
決算書の記載方法は複式簿記で、収支内訳書は単式簿記となります。
青色申告を行うためには、事前に税務署へ青色申告承認申請書を届出している必要があるため注意してください。
3.確定申告書の作成
決算書もしくは収支内訳書で計算した金額に基づき確定申告書を作成します。
別の収入や年末調整済みの給与所得がある場合、医療費控除や保険料控除を受ける場合もこちらに記入します。
確定申告書は各税務署にある書類に書き入れるか、国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用してください。
4.確定申告の提出
申告方法は
- 税務署の窓口に直接提出
- 税務署に郵送
- パソコンやスマートフォンでネット上から電子申告(e-Tax)
の3つの内から選びましょう。
e-Taxをするためには、マイナンバーカードとそれを読み取る機器(スマートフォンやカードリーダー)が必要です。
申告が終わりましたら、引き落としや税務署の窓口での納付などで税金を支払います。
【まとめ】
いかがでしたでしょうか。
不動産所得の確定申告は、帳簿が必要になり書類作業が煩雑になりがちです。
日ごろから確定申告についての情報を調べたり、帳簿の記載や必要種類をまとめておくことで、確定申告の時期に慌てずに済みます。
お金の流れが複雑な場合も、税理士会や税務署の無料相談を利用したり、確定申告ソフトなどを使ったりして、小まめな帳簿の記載を行っておきましょう。